恐竜博2016 @国立科学博物館(かはく) 恐竜大好き!な研究者たちの大盤振る舞い

私は、上野公園といえば思い出すのはまず「かはく」なんだけど、意外と友人たちに言っても「えー知らない」とか「言ったことないかも」という感じで知名度が低くてすごく残念。上野でもっともエキサイティングな博物館と言ってもいいと思う……上野の博物館を全部まわったわけじゃないが。理系の興味を刺激するのに最適といえよう。子供はすべからく「かはく」行くべし。

春休みに合わせて、ということだと思うけれども「恐竜博2016」が開催されるという。

特別展「恐竜博2016」(2016年3月8日(火)~6月12日(日))-国立科学博物館-

[venue id=4b612a56f964a520ae0b2ae3]

最近、うちの3歳の娘もなぜかちょくちょく恐竜に興味を持ち始め、英語動画で「dinosaurs」とかって単語まで覚えちゃって、「STOMP! STOMP!」とかけ声をかければ「ドシン、ドシン」と歩く真似をするところまで行き着いてしまっている。一方でデカいもの怖いものはまだ耐性がないので、以前は科学博物館前の巨大な実物大シロナガスクジラ像を見ただけで怖がって逃げ出したほど。 たしかにデカい。

at上野 国立科学博物館 シロナガスクジラ

恐竜博が娘に適しているかどうかを見極めに?取材してきた。

結論から言うと、展示されているのは割とアカデミックな内容で、3歳児には早いかなという気がする。化石の展示が主なので、化石から本物への連接を理解させるのは難しいかもしれない。小学生ならけっこうワクワクすると思う。

古生物研究というのが日々行われていて、ここ2〜3年だけでもけっこうめざましい発見があるのだなぁ……ということがわかって面白かった。今回の展示会は7つのキーワードに沿って研究の成果が並んでおり、そうした最先端の学術研究をわかりやすく展示してくれる「かはく」は実に素晴らしい。7つのキーワードは以下。

  • 「起源」恐竜のはじまりは小型二足歩行から。
  • 「植物食」肉食から植物食へ。腸が伸びて巨体化?
  • 「飛翔」後ろ足にも羽毛がある四翼タイプや、被膜で滑空タイプが発見さる!
  • 「水中進出」全身に水中生活の痕跡を残したスピノサウルスの全身骨格を展示!
  • 「赤ちゃん」化石化しにくいとされる幼体恐竜の化石が相次いで発見さる!
  • 「恒温動物」鳥類進化しなかった鳥盤類に羽毛発見さる!恐竜は最初から羽毛があったのかも?
  • 「鳴き声」骨格から鳴き声を推定できるパラサウロロフスの鳴き声を復元!

あと研究者の人たちがみなニコニコしていて、楽しそうにしているのが非常に良かった。プレス公開日だったので、高校の新聞部の子達が取材に来ていたのだけれど、そうした若者のインタビューにも丁寧かつフレンドリーに答えていた。(「恐竜の時代にタイムスリップしたら何をしますか?」「逃げ回らないといけないね(笑)……化石からでは分からないような特徴・生活を観察すると思うよ」) 
研究者たちが楽しんで仕事をしている様子が見られて嬉しい。

プレス内覧会では真鍋真氏(Wikipediaによれば、国立科学博物館地学研究部生命進化史研究グループ・研究主幹)が各コーナーの状況について一通り案内をしてくれた。また、要所では研究者の方々が通訳付きでポイントを語ってくれて、非常にわかりやすくいい内容だったと思う。

恐竜博2016 真鍋真氏

以下、会場の様子など。

第一会場

「起源」

爬虫類はそもそもワニやトカゲのように四足歩行。がに股で全身で這い回って移動するので速度が遅かった。 小型の爬虫類の骨盤に変化が起きて、身体の真下にまっすぐ足を入れる二足歩行が可能になった。つま先立ちで高速移動することができ、機動力で他の生物に対してシェアをのばしていったと考えられる。大陸がまだつながっていたので、世界中に広がったと考えられている。

アシリサウルス(恐竜形類、恐竜に近い爬虫類)は一般爬虫類と恐竜の境界線上にいると考えられている。

恐竜博2016 アシリサウルス

「植物食」

最初の恐竜は二足歩行で肉食だったらしいのだが、植物食に入ったものがあった。植物という資源が豊富にあったので数と種類をのばしたとされている。 植物は繊維なので消化に時間がかかる。歯が発達していなかったので腸を長くして消化する必要があった。そのことが恐竜の大型化や4足歩行化に関連したのではないかとされている。

会場ではカマラサウルスの子供の骨格標本が展示されているが、その後ろの壁面に描かれている絵は大人のカマラサウルス。20mにおよぶ巨体を持っている。

20160307恐竜博2016 カマラサウルス

チレサウルス。昨年チリで発見された。元々肉食だったが植物食に変化したとされており、昨年最も注目された恐竜の一つ。鳥に進化する過程でくちばしと砂肝を持つようになった恐竜もいるのだが、このチレサウルスは歯ですりつぶして消化していたらしい。

なんだかナウシカのアレみたい……

20160307恐竜博2016 チレサウルス

20160307恐竜博2016 チレサウルス

「飛翔」

恐竜の一部は鳥類として進化していった。

ミクロラプトルは飛翔に適応した初期の恐竜で、羽ばたき能力が低かったので後ろ足にも羽毛があり、どうも四翼の恐竜だったらしい。

恐竜博2016 ミクロラプトル

2015年に命名された恐竜イー。学名は「イー・チー Yi qi」で一番短い名前の恐竜。コウモリやムササビのような被膜を持って滑空したらしい。現代の鳥類には膜を持った物がいないので、後代の生物にはひきつがれなかった模様。

恐竜博2016 イー 恐竜博2016 イー

このコーナーの隅には顕微鏡が設置されており、琥珀標本を見ることができる。 花の琥珀。化石化しにくい花の形や大きさがこれまでわからなかった。 カナダの羽毛の琥珀、押しつぶされず原型をとどめている。

また、ブラジルの羽毛の化石の表面を拡大したブロンズの鋳物が展示されている。面積2倍凹凸5倍に拡張しているが、これでもかすかな凹凸しかない。元々の羽毛の化石が非常に繊細な構造をしていることがわかる。

「水中進出」

今回の目玉展示のコーナー、水中進出。ここにはティラノサウルス「スコッティ」スピノサウルスの骨格模型がある。

恐竜博2016

ティラノサウルスと比較することでスピノサウルスの特異性をより感じてもらいたい、ということで最も最近に復元されたティラノサウルス骨格「スコッティ」の世界に3体しかないレプリカの一つが同じ部屋に展示されている。 ちなみに「スコッティ」という名前の由来は発掘完了をスコッチウイスキーでお祝いしたことによるそうな。

恐竜博2016 ティラノサウルス

怖い。

恐竜博2016 ティラノサウルス

スピノサウルスは1915年に命名されたが、第二次大戦でドイツの標本が空襲で消失して、長らく画像にしか資料が残っていなかったという。 エジプト、モロッコで追加標本が発見され、一世紀ぶりに2014年に全身が復元された。 肉食恐竜には珍しく四足歩行。恐竜は水中には進出しないと思われていたが水中で長い時間を生活していたと思われる。

恐竜博2016 スピノサウルス

水中の恐竜って、エラスモサウルスとかいなかったっけ、と思ったんだけど、調べてみたら恐竜に分類しないらしい。ああ、そうなの。

プレシオサウルス – Wikipedia

学術的には「陸棲の直立歩行をする爬虫類」のみを恐竜と定義するため、本種を含めた海棲の首長竜や魚竜は分類上は恐竜ではない。

ミラノ自然史博物館のクリスティアーノ・ダル・サッソ博士による解説があった。
「(1915年の最初の発見から)100年ぶりに北アフリカで発見された標本を加えて、研究チームが全身骨格を復元したもの。中世の龍にも似て、これまでの恐竜とはだいぶ異なっている。ティラノサウルスよりも2m全長が長い。この(ふん)部(口先の部分)だけで1mあり、スピノサウルスの巨大さがわかる。

恐竜博2016 スピノサウルス

ワニのように魚などを食べていたのではないかと思われる。鼻の穴が後ろに下がっていることも水生適応の可能性が高い。鼻の先端部にある細かい穴は魚の動きを感知する感覚器官があったと考えられる。後ろ足が短いので、陸上では四足歩行し、水中では後ろ足で鳥のように水を漕いで使っていたのではないか。水中移動にはしっぽも貢献したと思われる。背中のトゲ(スピノという名前の由来になっている)の機能については議論があるが、血管が骨の中を通っているので、(ステゴサウルスのような)体温調節ではなかったと思われる。もしかしたら敵を威嚇する機能だったのかもしれない」

サッソ博士はここでキリスト教圏でよく知られた聖ゲオルグの絵をイメージしている可能性がある。聖ゲオルグの絵に描かれた「(dragon)」は四足歩行で、いわゆるファンタジーゲームなどに登場する首長竜よりはワニに似ている。

怖い。

恐竜博2016 スピノサウルス

巨大肉食恐竜スピノサウルスは水中で生活? 米大チームが論文 写真6枚 国際ニュース:AFPBB News

幸い?ティラノサウルスとスピノサウルスは時代も違い、同時にこの2つに遭遇することはなかったのだとか。ああよかった。

「赤ちゃん」

幼体は骨がまだ柔らかいため、化石化しづらいのだそうで。そのため、貴重な標本となる。 今回展示しているのはカスモサウルス、パラサウロロフスの幼体。どちらも1歳未満と推定されるほぼ全身の実物化石。大人と幼生の違い、社会性なんかについても研究が進んでいるそう。

恐竜博2016 カスモサウルス

こちらは大人のカスモサウルス。

恐竜博2016 カスモサウルス

アルバート大学フィリップ・カリー博士によるコメント
「今回展示されるカスモサウルスの幼体はカナダの恐竜州立公園から発見されたもの。 小さい種の恐竜や幼体など、小さな骨格の化石は非常に稀だが、ここ5年ほど幸運にも小さいものが出てきている。 今回展示されるカスモサウルス幼体は、角竜の全身骨格としては世界最小かつ最良。

また今回クリーニングするサウロルニトレステスの全身骨格が一目に触れるのは初めてのこと。これまで断片的にしか発見されてこなかった。ベロキラフトルとの違いがわかってきたより詳しく検証することが可能になる。

骨格をプレパレーション(クリーニング中)に展示することは非常に貴重。皆さんが展示会に来ている目の前で新しい骨格が姿を現す。世界中の研究者でさえ見ていない新発見が目の前で行われる。とても特別なこと。ラボの前でそれを実感して欲しい。」

ここでの通訳はアルバータ大学の大学院生宮下哲人氏。 「フィリップ・カリー氏に師事したい」と高校生からカナダ留学。現在はカリー先生の自宅に下宿して大学院に通っているという。すごい。そんな恐竜一直線の人がいるんだなぁ。 →宮下哲人さん特別講演会

パラサウロロフスには鼻の上にトロンボーンのような突起があり、音が出せると考えられている。

アンドリュー・A・ファーキ博士(レイモンドM古生物学博物館)による解説。
「パラサウロロフスの標本として最小かつほぼ完全なもの。高校生によって発見された。南ユタで2009年発見され、2010年発掘された。7500万年前の地層から出ている。クリーニング中に2mほどの小さい標本だということがわかった。化石がその死亡時に何歳だったかということを知るには、足の骨の断面を樹木の年輪のように数え、年齢を推定する。この標本の薄片には年輪がまったくなかったので、1歳未満と考えられている。この標本の発見により、パラサウロロフスは成長によって複雑な構造ができることがわかった。頭骨のとさかは幼体では発達していないが成体は非常に発達したとさかを持つ、というような、成長過程が明らかになった。最後にもう一度強調しておきたいが、誰でも科学に貢献できる、ということだ。この化石は、高校生によって発見され、高校生が発掘に参加した」

次の写真がパラサウロロフスの大人の頭骨。後ろにいるのがアンドリュー・A・ファーキ博士と新聞部の高校生。

恐竜博2016 パラサウロロフス

チンタオサウルス

東日本大震災で被災した福島県広野町にあったチンタオサウルスの標本が粉々になってしまった。クラウドファンディングのプロジェクトにより主旨者を募り、400万円ほどの金額をかけて復刻、今回の恐竜博2016でお披露目をしている。その後、北九州、大阪を巡回した後広野町に里帰りをする予定だという。

恐竜博2016 チンタオサウルス

恐竜でフクシマを応援しよう 震災で壊れた全身復元骨格を修復、全国巡回させ里帰り | クラウドファンディング|A-port 朝日新聞社
チンタオサウルス – Wikipedia

「恒温動物」

飛べないのに(そして鳥類に進化した系統でもなく)羽毛を持っている恐竜が発見された。恐竜が早い段階から羽毛を持ち、恒温動物に近い状態で昼夜の気温差に対応し、活動時間を増やすことができたのではないか、という仮説が学会を賑わしているのだそうだ。

その話題の渦中にいるのがクリンダドロメウス、2014年にシベリアから報告された羽毛恐竜。

恐竜博2016 クリンダドロメウス

(鳥類に進化する系統の)竜盤類ではなく(鳥類に進化しない系統の)鳥盤類だったが、羽毛の痕跡があった。仮に羽毛への進化が1度しか起きなかったと仮定すると、竜盤類と鳥盤類が枝分かれする前から羽毛があったという可能性が高くなる。

恐竜が繁栄した理由は「二足歩行の機動力」がこれまで定説であったが、恒温動物になりかけていたことで活動が有利になったためかもしれない。
現代の「テグ・トカゲ」という爬虫類は産卵期にだけ恒温動物になることで知られている。

寒い季節に暖かい話題 : 5号館のつぶやき

 南米に住むテグ・トカゲ (tegu lizard) です。体重は2キロぐらいですが、このきれいな皮のせいでバッグなどに珍重されてきた、可哀想なトカゲです。

 南米のトカゲなので春の10月頃に卵を産み温めるそうですが、その頃だけ「恒温動物」になるのだそうです。

「鳴き声」

パラサウロロフスのトロンボーンのような形状のとさかにはいくつかの機能があるとされているが、トロンボーンのような空洞で音を出す機能があったのではないかと言われている。また、今回発見された幼体は短いので大人より高い音が出るのではないかとも考えられる。

今回、CTスキャンで鼻道の形状を世界で初めて再現。パラサウロロフスのイラストに触れると声を聞くことができる。フォーンという低い金管楽器のような音がする。

恐竜博2016 パラサウロロフス鳴き声

第二会場: プレパレーション(化石クリーニング)

世界的に五本の指に入る技術者クライヴ・コイ氏がカナダから来日し、実際にクリーニング作業を進める。

恐竜博2016 プリパレーション作業

実際にクリーニングされるのは2014年アルバータ州で見つかった白亜紀のサウロルニトレステスの化石。デモンストレーション用のお仕着せの化石ではなく「私の35年のキャリアのうちでも一番いい部類だ」とクライヴ・コイ氏が太鼓判を押す非常に状態のいいもの。何万年も土の中にあった化石が日の目を見る瞬間を会期中見ることができるという。

クライヴ・コイ氏による実演スケジュール

実演日: 03/08(火)〜04/03(日)、06/02(木)〜06/12(日)
休演日: 03/14(月)および火曜日、水曜日(03/08(火)は実演)
実演時間: 9:00〜17:00(12:00〜13:00は休演)

04/04(月)〜06/01(水)は北海道大学の学生による化石クリーニング実演が行われる予定。

まとめ

近年の古生物学研究の成果をどーんと一挙放出する感もあるこの展示会。小学生以上80歳以下の子供にお勧め。恐竜の鳴き声とかなかなか聴けないでしょ。

図録も非常に造りの綺麗な、贅沢な仕上がりになっているので、一見の価値あり。わかりやすい4コママンガまで入っている(笑)図録部分はけっこう堅いので、読んで夢中になれるのは中学生か高校生くらいより上の年代かなー。

恐竜博2016 図録

この春、子供はすべからく「かはく」行くべし。

[EOF]

2016-06-10(金)追記

知人の記事が良かったので。→ベジタリアン南インド料理「ヴェジハーブサーガ」は最高だし「カヤバ珈琲」は喫茶店とカフェのいいとこ取りだよ:上野公園おさんぽおすすめコース[お得情報あり] : ハンサム部ブログ

おすすめ

1件の返信

  1. 2016年4月17日

    […] →恐竜博2016 @国立科学博物館(かはく) 恐竜大好き!な研究者たちの大盤振る舞い | パパゴト Papa,GoTo […]

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。