「マリモ発見120年 マリモの謎―どこからきたのか? なぜまるいのか?―」 @ 国立科学博物館(かはく) に行ってきた!

マリモ
展示されているマリモ

国立科学博物館(かはく)で「マリモの謎」展を開催するに先立ち、プレス向けの内覧会がありましたので行ってきました。マリモの謎は「マリモはどこから来たのか?」「マリモはなぜ丸いのか?」の二つ。この謎に対する今のマリモ研究の答えがここにあります。

マリモ研究は120周年

まずは、マリモ研究の歴史から。マリモを命名したのは川上瀧彌という植物学者で、札幌農学校の在学中、阿寒湖を訪れた際に発見し、翌年の植物学会に「まりも」を発表しました。

川上氏の師でありクラーク博士の弟子であった宮部金吾氏の文献が今では散逸してしまっていたり、かと思うと最古の標本は川上瀧彌氏より古いものが北海道大学の研究室で発掘?されたりと、当時の研究がいろいろ未分化だったことが伺えます。

マリモはどこから来たのか?

マリモがどこから来た藻類なのか、そして他の藻類とどのような近縁関係にあるのか、というようなことについて、分子系統解析という手法で近年理解が深まっています。

分子系統学(ぶんしけいとうがく、英語:molecular phylogenetics)とは、系統学のサブジャンルのひとつであり、生物のもつタンパク質のアミノ酸配列や遺伝子の塩基配列を用いて系統解析を行い、生物が進化してきた道筋(系統)を理解しようとする学問である。
–via 分子系統学 – Wikipedia 分子系統学 – Wikipedia

ふぉー! なるほど。これまでは外形や生息地から「たぶんこれと近い仲間」というような推定を行っていたものが、より本質的な生命構造から推定できるようになってきたということなのですな! 学問の進歩ってすごい。その結果、こんなことについて、理解が深まってきています。

  • マリモは最初から淡水環境だったのか
  • 北半球(日本、アメリカ、ヨーロッパ)に広く分布しているマリモは、どこが起源なのか
  • これまで何種類かあると考えられていたマリモの亜種・変種は、本当に別の種類だったのか
  • 誰がマリモを広く分布させたのか?

会場ではこれらの研究について、詳しい図解や映像を含めて見ることができます。マリモを広く分布させた犯人(という言い方を研究員の方がしてプレスの笑いを誘っていました)も、展示室内にでっかく展示されています!

マリモの系統学

マリモはなぜ丸いのか?

マリモはなぜ丸いのか、についてはこれまでさまざまな研究がされてきました。。過去には「中澤信午式マリモ回転培養装置」なる機械が形状研究に一役買ったということで、その実物が展示室においてあります。危ないので展示中は動かす予定がないそうですが、プレス向けにはグイングイン回転するところも披露されました。

その後、さまざまな研究、観察の結果、水の動きが丸さに関わっていることがわかってきたそうです。水面の詳しい動きについては展示で見て頂くとして、私が特に面白かったのはマリモのライフサイクル。

マリモが湖岸に打ち寄せられて波で壊れてしまう現象があり、以前はこれを「被害」と考えマリモの崩壊を防ぐ方向で施策が行われていた時期がありました。しかし研究が進むにつれて、この崩壊はマリモのライフサイクルの一環になっているという見かたが有力になっているとのこと。

マリモは生育条件が整えば年に2〜4cmくらいのスピードで大きくなるわけですが、直径が大きくなると光合成を行う表面積と保持すべき体積の比率が変わり、非効率になっていきます。例えば、半径3cmのマリモでは表面積36πの光合成で36πの体積を支えていたのが、6cmになると144πの表面積で288πの体積を支えないといけません。つまり効率が下がるわけです。

そこで適度な周期で大きくなりすぎた個体を崩壊させ、崩れた破片からまた数を増やすというサイクルの方が効率よいのではないか。

一見すると「被害」な個体の崩壊が、実は全体の繁栄に必要なプロセスだった……というのはなかなか面白かったです。

展示室には阿寒湖から来ている大型のマリモの展示などもあり、神秘的なマリモの形状を楽しむことができます。

マリモのこれから

かわいいマリモですが、丸くなる条件がけっこうデリケートということもあり、絶滅危惧1類にランクされています。これまでにも森林伐採などの影響で2つの群生地が消滅してしまいました。また、他の藻類と競合するので、他の藻類が繁殖してしまうとちょっと簡単にはマリモの生息地に戻すことができません。以前には阿寒湖の富栄養化によって藻類が増え、マリモの生息地が浸食されるということもありました。

現在では、マリモ保全、教育普及を実現する「My マリモ」という試みが行われています。この「My マリモ」は培養して増やしたマリモや破損したマリモを材料として人為的に球状化させたもので、ICタグを埋め込み、名前をつけて管理することができます。このノウハウには、球状マリモの再生過程についての調査研究や、マリモを構成する糸状体が同じ遺伝情報を持つクローンであることを確認した結果などが活かされており、以下のような成果が出ています。

  • マリモの生成過程や生長速度の解明
  • 天然マリモを用いない展示の実現
  • 市民が自ら作成したMyマリモを使って体験的な学びを実践

そのうちには観光客の参加によるマリモ育成活動も検討中ということなので、楽しみですね。

②マリモの保護育成試験 / 阿寒湖のマリモ 公式サイト MARIMO Official Web Site

マリモの育成試験 / 阿寒湖のマリモ 公式サイト / 国の特別天然記念物 まりも / MARIMO Official Web Site

夏休みの自由研究から始まるフジマリモの研究

山中湖に生息している「フジマリモ(現在ではマリモと同一種であることがわかっています)」は、1956年に地元の小学生が発見し、東京から来た別の小学生が採集、自由研究にまとめました。このマリモは60年間生育を続け、山中湖のマリモが消滅の危機にあるということから、2011年に国立科学博物館に持ち込まれ、山中湖でのマリモ研究につながったとのこと。

自由研究

山中湖で採集されたマリモ

この顛末は絵本にもなっているそうです。内覧会にはこの二人目の「元小学生」が会場に来ておられ、やや照れながら紹介されておられました。マリモの説明にも熱心に耳を傾けておられ、写真を撮ったりして探究心あらわにしておられました。本気の自由研究、すごいですね。ぜひうちの娘にも頑張って頂きたい。

マリモの再生作業

釧路市教育委員会マリモ研究室長 若菜勇(わかないさむ)氏によるマリモの再生作業の実演が行われました。

15cmほどのマリモをカッターで解体する作業も実演されました。マリモは非常に固く、このサイズのマリモを解体するのにカッターナイフの刃を3本ほど替える必要があります。特別天然記念物のマリモは保全のために管理されており、こうした実験に使用するマリモも年間いくつまでと数を決めて行っているそうです。今回解体した個体はそのまま展覧会で展示されます。

マリモの内部構造を見る

マリモが大きく生育すると内部の藻は光合成ができず脱落してしまうため、中は空洞になっています。脱落したマリモが小さい塊になっていることもあります。一見すると緑のマリモも、明るいところでよく見ると微妙な色の違いが模様になっており、こうした模様から過去の湖水の様子がわかるのではないか……という意見も。

マリモの構造

さて、次にマリモ再生、My マリモの作成です。湖岸に打ち寄せられて崩壊したマリモを人力で球の状態にしてやることで、マリモの再生プロセスを加速することができます。正常なマリモでは糸状体というが放射状になっているので、同じように丸めて糸で縛るとのこと。これを水の中に戻すと数ヶ月で成長し、天然物とかわらないマリモに再生するのだそうです。こうして再生したマリモを実験や展示で使用することで、天然マリモの個体数を減らさずに研究をすることも可能になり、マリモ保全に多いに役立っているとのこと。

質問タイムがありましたので、海外のマリモ研究の現状について聞いてみました。海外でもマリモは確認されていますが、やはり球状化する条件が非常に厳しいため、今では球状マリモの群生は阿寒湖だけになってしまっているとのこと。それでも少し前まであったアイスランドの群生地にも研究者がいる他、ドイツなどの研究者とも共同で研究を行っているとのことでした。

まとめ

阿寒湖に生息する不思議なマリモ。私も子供の頃、北海道土産のマリモのキーホルダーを見て「こりゃいったいなんだべさ」と思ったのを覚えています。こぢんまりした会場ですが、マリモの発見・命名から120年を記念するにふさわしい、知的な内容の展示。足を運んでみてはいかがでしょうか。

イベント情報

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