この絵本がすごい! スズキコージ『サルビルサ』
世の中に絵本も情報もあふれかえっている昨今、よほどの定番名作の類いならいざ知らず、個性的な絵本との出会いというのは直感的というか幸運というかそんな要素があって、若いうちに気に入る絵本に出会えることは本当に僥倖である。大人になってもまた然り。
カミさんがわらべうたのワークショップに行くというので上井草の岩崎ちひろ美術館に同行し、企画展示を見るうちに、本当にたまたま、表紙のカラフルさにひかれて手にとったのがこの『サルビルサ』であった。ある一つの事件から始まる一連の大事件を描いている。
衝撃作と言っていい。斬新だ。前衛的だ。
しかしどうやってネタバレ種明かしをせずにこの衝撃を伝えていいのかわからない。この面白さが何歳くらいから理解されるのかもわからない。もしかしたら結構年齢上にいかないとわかってもらえないかもしれない。小学生か、もしかしたらもっと。
しかしながら、絵本というものが、言葉と絵という手段を最大限活用し切って物語を伝える媒体だと考えれば、この作品の採用した表現手段は、この物語の内容に素晴らしくマッチしている。人類が共通に持つ論理性に訴えかけるすごい表現だ。
同じちひろ美術館内の図書室にスズキコージ氏の他の作品もあったのでいくつか見てみた。さし絵だけ担当した作品もあり、独特の色彩感覚あふれる絵は確かに魅力的だが、やはり本人がストーリーを考えた作品の方に才能を感じる。『うみのカラオケ』もすごい。破天荒としか。「ケツアルコアトル」の神話を紹介する絵本もあって、スズキコージ氏の絵にはよく合っている。
ちひろ美術館での今回一番の収穫であった。サルビルサ。サルビルサ。
騎兵が獲物を追っかける。反対側から敵が来る。2本の槍が同時に獲物を倒し、2人はそれぞれの王に報告。獲物を巡って2軍の壮烈な戦いが…。エネルギッシュなブラックユーモア。ほるぷ出版1991年刊の再刊。
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